妊婦健診で胎児の病気が見つかった場合、
生まれてから治療を始めたのでは間に合わず、胎児の命に関わるものがあるので、
おなかの中にいる段階で治療をします。
これを「胎児治療」といいます。
胎児治療は基本的に全額自己負担でしたが、最近では医療保険が適用される治療が増えました。
医療従事者の方々の努力の賜物だと思います。
胎児胸水の治療、情報がなくて困る。
妊娠12週のときに、「胎児胸水」と診断されました。
肺を圧迫している胸水は減る気配もなく、胎児治療を受けることをすすめられました。
母体のおなかに針を刺し、胎児の胸水を抜く治療です。
胎児胸水の治療について→ http://fetusjapan.jp/method/method-77
胎児胸水の治療は、まず胎児の胸を目がけて針を刺し、水を抜いてみます。
再び肺に水が溜まらなければそれで終了なのですが、
再貯留を始めた場合は「胸腔・羊水腔シャント術」という治療を受けます。
母親のおなかに針を刺し、
シャントチューブと呼ばれるポリエチレン製の管(長さ5~7センチ、直径1・5ミリ)を
胎児の胸と羊水の間に通して置くことで、胸水はこの管を通って羊水に流れるようになります。
朝日新聞デジタル「胎児治療、育む生命 初の医療保険適用」参照
当時、病院から受けた説明で私が理解したことは、下記の3点。
・胎児治療は医療保険が適用される部分と、適用がない範囲とがある。
(シャント術は保険適用されるけど、針を刺して水を抜く最初の治療は自費)
・熊本の病院ではできないので、福岡の病院で治療。
(後日、休養中だった胎児治療の専門医が復帰されたので、熊本でも治療可能に)
・胎児治療を受けないと、胎児の命に関わる。
治療の費用・期間については具体的な情報を得ることができませんでした。
それがますます不安をあおります。
病院に問い合わせても、「治療によって変わるので、計算してみないと何とも言えない」
という回答で、「いやいや、概算でもいいから知りたいんだけど・・」
と食い下がっても回答は得られず、
いくらかかるのか、見当もつきません。
もしかしたら数百万もかかるかもしれない治療を受けて、
それだけで終わればいいけどそんな保証もなく。
何週間も県外に入院することになったら、上の子はどうすればいいんだろう。
今ある生活を逼迫してまで、先が見えない治療を受けたいかどうか?
命はお金に替えられない、なんて、きれいごとだわ。。。と思いました。
やっぱりお金は大事な問題。
担当医に了承を得て、その福岡の病院に直接問い合わせました。
胎児治療の専門医が私の状態の話を丁寧に聞いてくれ、
考えられる治療スケジュールについて説明してくれました。
入院期間は長くても2~3週間。
退院後も通院が必要。
シャントのチューブが抜けた場合は再び胎児治療が必要。
針で胸水を抜く治療(2回施術する可能性も)の費用は、羊水検査ほどはかからない。
これらの情報をもとに、自分で概算してみた結果、
手術・入院にかかる費用は50~60万円ほど。
パートナーと話し合い、まずは今できることをやろう、
先のことはわからないけど、やれるところまでやろう。
ということで治療を受ける決断になったとき、
羊水検査の結果がどうなるかなんて、ほとんど頭になかったです。
ちなみに。
羊水検査を受けたとき、担当医が
「胎児治療はもっと痛いですよ。
針も羊水検査より若干太いし、胎児は動きますからね!
小さな肺に、きちんと針を刺さないといけませんから、
何度かやり直す可能性もあります。まー、そこは頑張ってもらわんとですね!」
と親切だけどブルーになるインフォメーションをくれました。
その後、22週を過ぎた頃、胸水は完全になくなりました。
思ってもみなかった、自然治癒です。
産みたい人の負担を減らすために
でもこの治療にかかる自己負担額、払えない人もいるだろうと思います。
経済的に余裕がない人は、そもそも妊娠すべきではない?
そんなリスクを見越してまで準備しないと、出産できない社会なの?
自分の身に起こるまで「胎児治療」という言葉も、治療にかかる個人負担についても、
まったく知りませんでした。
私の場合、奇跡的に治療の直前に自然治癒したけれど、
胎児治療の現実を突きつけられて、苦悩している人がこれからも出てくると思うと
他人事だと思えません。
その治療にかかる費用が、数十万円、たとえ数万円であったとしても、
生まれてきた子どもの衣食に使われた方がよっぽど素敵なのになぁ。と思ったり。
妊娠・出産にかかる経済的なストレスが、
「産みたくなる社会」を遠ざけているんだと思います。
安倍首相が発表した政策「新3本の矢」の中のひとつに、
希望出生率を1.8まで引き上げるというのがあります。
そのための子育て支援や、就労支援が主流になっていますが、
これはあくまで国の経済力を上げるための支援だと、今回の経験を通して気づきました。
また、日本創生会議の「ストップ少子化・地方元気戦略」の中では、
子育てしやすい環境整備や不妊治療の支援については言及されていますが、
もっと広い視点で出産・育児をとらえ、
産みたい人が安心して産むための支援や制度が必要だと思います。
日本には子育ての福祉はあるけれど、出産の福祉は不十分。
自己責任にされがち。
経済活性化のための少子化対策ではなくて、
国民の育てやすさ、暮らしやすさを追求した上で、
結果として経済が活性化するような社会になることを願います。
そのためには、出産に関する支援もこれから充実させていく必要を感じます。
出産の医療保険について調べているときに、医療従事者による政策提言書を見つけました。
東京大学公共政策大学院 医療政策実践コミュニティー(H-PAC)
政策提言書「子どもの人権擁護の立場に立った周産期医療モデル」
現在の医療制度では、正期産新生児は「母親の附属物」としての位置づけであり、①「当然行われるべき最低限の管理すらされていない」、②「質の高いケア・管理を実施する医療機関が限られている」ことが問題である
現場にいる方々のリアルな声、問題意識、
それを提言書にまとめる行動など、敬意を覚えます。
まだまだ気づかれていない社会課題はたくさんあると思いますが、
当事者がこうやって声を上げていくことが、未来につながる大事な一歩で
制度も支援も、ピボットを重ねて創っていくしかないのです。